アラブの恋と月の話!

月に見えるものはうさぎ? それとも……
月を見て、連想するのは何か。「うさぎだよ、うさぎ」と日本人の仲間の一人が言うが、アラブ人、そしてエジプト人である私の目に写る月の姿はうさぎではない。
どうやら月を見て何を思い浮かべるかは、国によって違うらしい。日本では、月の模様は「うさぎが餅をついている」とよく表現される。幼い頃に、月には兎が住んでいるという話を聞かされ、本当に信じていた人もいたそうだ。もしかしたら、今もそう思っている人もいるかもしれない。

ほかの国はどうだろうか。ある国では、月の黒い影の部分を巨大なはさみを持つカニに見たてたり、ロバに見たてたり、本を読む少女に見たてたりと、じつにさまざまである。これらの見立ての背景となったのは諸民族の間に伝えられた伝説によるものだが、アラブ人の目に写る月の姿は、意外とロマンティックな要素で溢れている。
美しい女性……意外かもしれないが、アラブ人の目には、月は美しい女性に見えるのである。
一度見たら心奪われる、満月前夜の月
もちろん、これにはわけがある。満月前夜の14日の月。この日の月は、アラブ人にとってどうやら特別なものである。実際に見ていない人にとってそれを想像するのは難しいかもしれないが、”qamar arbatashar/カマル アルバーターシャル”と呼ばれる14日の月は、その形といい、明るさといい、気高さといい、これ以上美しいものはないだろうと感じさせるほどのもので、それを見た人はその美しさにたちまち見とれてしまう、いや惚れてしまうのだ。

イメージ写真 美しい目と月

アラブ人は、好きな人の目を見て、「君の瞳って月のように美しい」と殺し文句を放つが、こうしたイメージから、彼らは、月を意味する「qamar/カマル」という言葉で、美しい女性を表現することが多い。
 
アラブの恋―男心を知りたい‐
昔、シリアにライラという田舎娘が暮らしていた。彼女はほんの田舎娘だったが、男の心をつかむことに絶大の自信をもち、そのノウハウを心得ていた。
彼女はある日手紙を書いた。それもありきたりの男宛てではなく、当時の政界のトップをいく男だった。彼女の手紙に込められたメッセージは、第一に、恥ずかしがら、自分はあなたのよい奥方になれるだろうということ。第二に、自分の支えがあれば、あなたはさらに高い政治的地位に登れるだろうということだった。
彼もやはり人間、しかも男。たかが小娘とはいえ、彼女の自信と、自分に対して絶大な信頼を寄せているということが、彼の心をときめかせた。彼はさっそくライラを宮殿に招き入れた。
チャーミングなライラは自信に満ちた行動を見せた。自分があなたのそばにいれば、運は必ず開くとまで予言したのだった。彼はその言葉を信じ、彼女を妻にした。そして、ときは流れた。彼は皇帝の座にまでのぼりつめ、そのトップレディーになったのは、その昔、巧みな言葉を重ねて手紙を書いたかつての田舎娘だった。
アラブ世界に古くから伝わるこの小話では、男を虜にする女の絶妙な暗示力について考えさせられる。確かな根拠はないが、アラブの女性は「暗示力」という不思議な魅力をもっていて、その能力で男心をつかむ。しかし、その暗示力の前に、アラブの女性が男心をつかむことができるのは、おそらく次のような男の気持ちを心得ているからだろう。
― 多少の欠点には目をつぶって甘やかしてもらいたい。
― けなすのはタブー、ほめて伸ばすのがアラブ式。
― 女性はおしゃれを楽しんでチャーミングでいてほしい。
― 二人のときは、日ごろの圧迫から逃れてくつろぐ時間を共有したい。
― 自分を誇りに感じてほしい。
― 命令口調ではなくお願いされたい。
― 目が合ったらほほ笑むなど、女性からのアプローチが嬉しい。
― 自分がリードしていたい。
男と女が、好き合って幸せをつかむのはとても素敵なこと。互いに魅かれ合う男女の資質は、万国共通であるものも多いのではないだろうか。
誰かに憧れ、相手に尊重されるときめく時間は特別だ。なにはともあれ、大切なのは相手を想う気持ち、なんて言うと陳腐なセリフに聞こえてしまうけれど、それはどこの国でも変わらないのではないだろうか。ただ日本ではよく耳にする「だめねえ」とか「早くやってよ!」なんて厳しい言葉では、アラブの恋はなかなか育たないのは間違いないだろう。
「これお願いできる?」なんてチャーミングに言われると、女性のために予想以上に張りきってしまうのがアラブの世界。とにかくほめ合う、指摘するときは言葉を慎重に選んでプライドを傷つけない、これがアラブの恋の育て方かな、と僕は思う。
 
 
 

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